
横振り刺繍歴史物語
日本とミシン
横振り刺繍(よこぶりししゅう)とは、日本独自に発展した伝統的な刺繍技法で、ミシンを使って職人の手の感覚で描く"職人魂が宿った刺繍作品”です。
通常のミシン刺繍が自動で縫うのに対し、横振り刺繍は職人が布を左右に動かしながら、一針一針を感覚で描いていきます。そのため、筆で描くような滑らかな線や繊細なグラデーション、独特の立体感を表現することができます。
起源は戦後の日本。洋服や帯、看板、着物の刺繍などに使われ、全国で職人が活躍しました。現在ではその技術を継承する人が少なくなり、非常に希少な伝統工芸となっています。
横振り刺繍は、糸の光沢や材質を活かし、光と影を自在に操ることができるのが特徴。手の動きと感性がそのまま作品に反映されるため、まるで“糸で描く絵画”のような深みと温かさを持っています。
現代では、アートとして進化を遂げ、祈り・スピリチュアル・癒しなどのテーマと融合し、新たな表現として注目されています。
日本の伝統技術と精神文化が織りなす、唯一無二の刺繍芸術。
それが「横振り刺繍」です。

ミシンは1755年〜1830年代までに、
ヨーロッパで様々な構造で考案され、
1851年にアイザック・シンガー(シンガーミシン)によって
実用化されたといわれています。
そして、1854年に黒船に乗って来航したペリーから
徳川将軍家に贈られたのが「日本」と「ミシン」の出会いでした。


手刺繍から横振り刺繍へ

明治時代、京都・西陣から手刺繍の職人を迎え、
絹の産地、群馬・桐生の刺繍業が始まりました。
横振りミシンは、
約100年以上前に千鳥ミシン(ジグザグミシン)を
桐生の職人が刺繍用に改造したところから始まります。
横振りミシンとは
横振りミシンはキャンバスに筆で絵を描く絵画のような刺繍技法。
ペダルで縫うスピードを調節し、
足のレバーで針の振り幅を変えながら、
手で生地を自由自在に動かし、
縫っていきます。

横振りミシンの普及

そして、横振りミシンが普及するにつれ、
生産性が飛躍的にあがります。
多品種少量生産で、分業制にも磨きがかかり、
半襟、袱紗、鏡台掛けから仏具、
和装品などへの刺繍が流行となります。
日本の洋服の誕生
日本の刺繍技術は国内外より高く評価され、
第二次世界大戦中は政府によって
技術保存の措置まで講じられた産業でした。
そして、桐生のとある刺繍業の代表が、
戦後の物資のない時代でも、
仲間とともにお土産物(スーベニア)の新商品開発に
明け暮れていました。
当初はハンドペイントした商品も多かったが、
やがて日本独特の横振り刺繍を商品に取り入れることになります。
ここで日本生まれの洋服、
「スカジャン」が誕生しました。

横振りミシンの現在
日本で開発され、メイドインジャパンを広めた、
この素晴らしい伝統工芸が、
横振ミシンの生産終了、
さらに技術者の高齢化と継承者が育たないことによって横振り刺繍は、
絶滅の危機に瀕しています。